京島共同凸工所の本『京島の十月』が素晴らしかった

東京の墨田区、スカイツリーの北東方面に「京島」という地域がある。この場所に今からちょうど1年前ぐらいの2023年7月1日に京島共同凸工所という工作所が大学の先輩である淺野義弘さんによって開かれた。(運営は 淺野義弘+暇と梅爺株式会社 https://kyojima-totsu.studio.site/ ) 単純に工作をする工房としても使えるし、3Dプリンターやレーザーカッターをはじめとしたデジタル工作機械の講習を受け、レンタルすることもできる工房だ。 そして先日2024年6月1日に淺野さんが工房とともに京島で過ごした日々を綴った『京島の十月』が出版された。 出版記念イベントでお話を伺い、本を読ませていただいた。 書籍「京島の十月」 https://kyojima-totsu.stores.jp/items/665c3585e4567c1b41e30f54 私は短い期間だが2015年ごろから京都でシェア工房を運営していたので、その当時のFabやメイカーズムーブメントの空気感を私なりの視点から言語化しつつ、今回の『京島の十月』、京島共同凸工所を通して得た私の感想を書き留めておこうと思う。 FabとFabLab、ファブスペース、メイカーズ まず最初に京島共同凸工所ができるまでの流れの前提となるFab,FabLab,メイカーズムーブメントの源流について書いていこうと思う。 Fab ここでいうFabとは、当時米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のmit media lab 内にあった Center for Bits and Atoms の所長である Neil Gershenfeld氏が提唱した、ものづくりに関する運動のことを指している。 『Fab パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』 https://www.ohmsha.co.jp/book/9784873115887/ Fabという概念自体は非常に抽象的で広範な概念で、良くも悪くもこのFabを各人が自分の持っている技能やポジションに合わせて解釈して使われているというのが実態で、Fabとはという話をすると十人十色の答えが返ってくる。私なりの言葉で短くまとめると、Fabは「ものづくり」というものが家内制手工業から問屋制手工業、工場制手工業、工場制機械工業と変遷していくにつれ大量生産が前提となり、人々から資本家・市場経済の世界に奪われ不自由になってしまったので、それをインターネット・地域・デジタルファブリケーション機器を使い再び手元でものをつくるという自由を取り戻そうという運動の総称であると捉えている。 中世前期は家内制手工業という形で、あらゆる日用品や仕事に使う農具、衣類などは自給自足の形で家庭内で作られていた。それが中世後期にかけて都市の発達に伴い交易が始まり、市場経済が拡大した。品質を維持したり技術を継承するためにギルド制が発達する。その後流通量が増えてゆきより組織的な生産が必要となる。商人が広範な地域を一括して流通管理・生産過程を管理し品質や納期を統制し始め、さらなる効率化を目指し商人が作業場を用意。そこに人を集めて生産を行うようになる。その後産業革命を機に蒸気機関による機械化が進み、工場制機械工業へと変遷してゆく。 この過程でものづくりの仕事は細分化が進んでゆく。工業化による生産技術の進歩により職人一人で10台以上の機織り機を操ることができるようになったり、何トンもの力を生み出す工作機械を使うことにより様々な素材を取り扱うことができるようになった。結果として日用品は手工業品から工業製品(機械製品)に移り変わり、手で作ることはできないものとなった。第二次産業革命以降石油化学の発達により1862年にはセルロイド、1907年にベークライトが。それ以降も様々な合成樹脂が開発されてからは射出成型など大規模な生産設備が前提となり工場自体もグローバリゼーションの流れのもと身近な町工場が消え、世界中のどこかにある超大規模な工業団地に集約された。 *2017年6月5日MITメディアラボ内で開催さ入れたThe DgigitalFactoryにて講演するNeil氏 このようにして身近にあるほぼすべてのものは頑張って手元で作ろうとしても作ることが不可能なものとなり、ものは買わなければ手に入らないものとなった。一方ものに対し、情報はインターネットの普及に伴い今までよりもずっと誰もが安価にありとあらゆる情報にアクセスできるようになった。Wikipediaをはじめとした独立した、もしくは公的な機関があらゆる情報を電子化し検索可能にして公開していく。あらゆる技能を持った個人がブログという形でその知識を公開しGoogoleが検索可能にしていく。さらにパーソナルコンピューターという形で1人1台の端末を持ちそのうえであらゆる情報処理を行える。方法はソフトウェアという形で共有され、シェアウェアとともに多くのオープンソースソフトウェアが生まれていった。 この情報の自由のようにものづくりも、パーソナルファブリケーションという形であらゆるものを作る道具が普及し、作り方がインターネットを通じて公開され、オープンソースソフトウェアを介してノウハウも共有されていくような形になればすでに市場経済から脱することができている(近年のAIは怪しい)情報と同じようにものづくりも自由を手に入れ、自給自足可能になるのではないかというのがFabの思想であり、Fabという運動だ。 そのFabの理念を体現していたのがNeil Gershenfeld氏自身がMITで1998年から行っていた授業が「How To Make (Almost) Anything」である。 MIT OpenCourseWare How To Make (Almost) Anything https://ocw.mit.edu/courses/mas-863-how-to-make-almost-anything-fall-2002/ これは先述のデジタルファブリケーション機器だけではなく様々な工場ではなくガレージで使える規模かんの工作機械を作って、樹脂製品から刺繍、鋳造から電子基板までいわゆる「ガジェット」であればどんなものでも作ることができるように1ターム(3ヶ月)でなるという授業である。Fabの理念を体現している授業で、この授業を通して自分がものを作れる自信を獲得することができる。この授業で生まれたプロトタイプをベースにクラウドファンディングで資金調達して生まれたのが有名なSLA3DプリンターメーカーであるFormlabsであるし、日本でFabを先導した田中浩也教授もこの授業の卒業生である。 田中浩也教授による詳細な体験記が残されている https://fab.sfc.keio.ac.jp/howto2010/ Fab Lab さらにFabの理念を体現しているのが2002年に作られたのが「FabLab」である。非常に具体的にFabLabとは何かが定義されている。 *FabLab大宰府 2022年3月訪問 FabLab Japan Networkのホームページが詳しいのでみていただきたい http://fablabjapan.org/whatsfablab/ ものづくりを人々の手に取り戻すためには3つのことが必要で、それは「Learn」「Share」「Make」が必要で、それの拠点としてFabLabというものを定義して世界中に共通のコンテクスト・共通の機材を持った拠点を広げていこうという話だ。 先述の通り情報の世界、コンピューターのパーソナル化の過程で起こったことを踏襲するべくそのために必要な環境を整備しようとしている 機材を共通化することで実行環境を統一する - 実行環境が統一されているので得られたノウハウを共有することができる デジタルファブリケーション機器によって遠隔地でも再現できる - FabLabで作られたものは世界中どこのFALabでも同じものを作ることができる FabLabに集まる様々な工業的製造業に携わる人から得られたノウハウを展開しやすい マニュアルが共通化できるので教育の効率が飛躍的に上がる WindowsとかMacみたいな基盤となるOSを作ろうとしているのだ。...

June 12, 2024